三四郎池の自然環境調査



背景と目的

三四郎池は、現在の東京都心部では数少ないまとまった自然環境である。夏目漱石の「三四郎」の記述にも見られるように、100年前の本郷キャンパス周辺には畑や草むらが広がっていた。しかしそうした牧歌的な風景は、この100年間の間にほとんど消失してしまった。また、キャンパス周辺だけではなく、歴史調査のパートで明らかになったように、キャンパス内部においてもオープンスペースの減少が進んでいる。大都市の中心にある大学の憩いの場として、わずかながら残された生物達の避難地として、三四郎池は貴重な自然環境を形成していると考えられる。

三四郎池の今後を考える際に、こうした自然環境に関する情報は、重要な基礎資料となるものである。例えば、樹木や草本の管理計画の立案には、植物相に関する情報が不可欠である。また、植生管理によって影響を受けることが予想される動物相に関する情報も重要である。しかし、これまで三四郎池の生物相について、包括的に整理された資料は存在しない。実際に、現場で行われている管理も、自然環境に関する正確な情報に基づいてなされていない。

利用の面から見ても、生物相保全の面から見ても、適切な植生管理計画が立案され、実施されることは大きな意義がある。また、歩道等の整備計画を検討する際、その整備が周辺の自然環境に与える可能性のある影響は、出来る限り検討されるべきである。そこで本調査では、三四郎池の自然環境、すなわち植物相と動物相に関する基礎的な情報を収集・調査し、取りまとめることを目的とした。

なお、調査において確認可能な生物は季節や年度によって変化していくものであるから、ある場所の生物相を正確に把握するためには、長期にわたる継続的な調査が必要である。1年間という限定された企画実施期間から、今回収集・調査された生物は、三四郎池に生息するもののうちのごく一部に留まった。具体的には、本企画として植物相、水中環境、そして地表性昆虫の調査を行った。現地での実際の調査に加えて、既存資料の収集や、本学の関連部局や関連教員に対する聞き取り調査も行った。本企画においては今回の調査結果を活用して今後の三四郎池のおおまかな方向性を示すが、今後、新たな調査が行われた場合は、その結果を参照し方向性の再検討が行われることが望まれる。

植生調査

方法

三四郎池における現在および過去の植生を把握するために、資料調査および現地での植生調査を行った。資料は、大学本部および理学部、農学部、工学部の関係する研究室にて関連教員に聞き取りをする形で収集した。本企画によってまとまった資料として確認されたのは、大学本部によって2003年に行われた毎木調査資料、および1993年と1998年に本学農学生命科学研究科森林科学専攻が行った調査をまとめた「東京大学本郷キャンパスの樹木」のみであった。

現地での植生調査では、こうした既存資料で把握されていない下層植生および島部分の種組成の調査を主に行った。下層植生の調査は、2008年6月13日に行われた。三四郎池を一周し、1.5m以下の層に確認された種を記録した。島部分の種組成の調査は、2008年7月2日に行われた。ボートにより池の中央島部分に上陸し、木本・草本含めて確認された全ての植物相を記録した。

結果と考察

資料調査と現地植生調査の結果、三四郎池の植生の特徴として、落葉樹・常緑樹に一部珍しい樹木が混在していることと、各層にわたって植生が発達していることを指摘できる。落葉樹は鳥散布の種の個体数が多くなっており、都市内樹林地の小規模な樹林地の典型的な種組成であるといえる。常緑樹はシイ類やカシ類などが中心で、これはこの地域一体の潜在的な植生である。

こうしたいわば地域に典型的な樹種の他に、周辺では見られない珍しい樹木も存在している。具体的には、ヒロハノミミズバイ・シマホルトノキ、ヒトツバタゴ、アカガシワといった種である。こうした樹木は、おそらく加賀藩屋敷の庭園由来であるか、どこかの時期で人為的に持ち込まれた木々であると推測されるが、正式な由来は不明であるものがほとんどである。

今回収集された資料から、近年の三四郎池周辺における植生の変化を知ることができる。1993年、1998年、2003年にかけての3時期の高木層の主要な樹種を見ると、ミズキ・エノキ・ムクノキを中心とした植生は大きくは変化していない。しかし、2003年になって、シュロとイロハモミジが増加してきている傾向が確認できる。シュロについは、今回の現地調査においても、低木層に広く生息していることや、草本層に多くの実生が存在することが明らかになった。シュロは近年東京都市部の樹林地における顕著な増加が報告されており、伐採が行われない限りは、三四郎池においても今後も増加の傾向をたどることが予想される。また、近年本数の上では大きな変化はないが、低木層を広く覆っている樹種として、トウネズミモチが現地調査で確認された。

   
   図1:三四郎池の主要樹木の変化(上位5種の本数)
   1993年、1998年:「東京大学本郷キャンパスの樹木」東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻, 2003.
   2003年:東京大学本部施設資産系保全グループ・環境グループによる毎木調査資料

三四郎池周囲の草本層の植物リスト(2008.6.13 2m以下)




科名

  種  名

学     名

ワラビ

オオバノイノモトソウ

Pteris cretica L.

ワラビ

イノモトソウ

Pteris multifida Poir.

オシダ

イヌワラビ

Athyrium niponicum (Mett.) Hance

オシダ

ナガバヤブソテツ

Cyrtomium devexiscapulae (Koidz.) Ching

オシダ

オニヤブソテツ

Cyrtomium falcatum (L.f.) C.Presl

オシダ

ヤブソテツ

Cyrtomium fortunei J.Sm.

オシダ

シケシダ

Deparia japonica (Thunb.) M.Kato

オシダ

ベニシダ

Dryopteris erythrosora (D.C.Eaton) Kuntze

オシダ

ミドリヒメワラビ

Thelypteris viridifrons Tagawa

チャセンシダ

トラノオシダ

Asplenium incisum Thunb.

イネ

アシボソ

Microstegium vimineum (Trin.) A.Camus var. polystachyum (Franch. et Sav.) Ohwi

イネ

ケチヂミザサ

Oplismenus undulatifolius (Ard.) Roem. et Schult.

タケ

アズマネザサ

Pleioblastus chino (Franch. & Sav.) Makino

タケ

オカメザサ

Shibataea kumasasa (Zoll.) Nakai

ヤシ

シュロ

Trachycarpus fortunei Wendl.

サトイモ

セキショウ

Acorus gramineus Soland.

ツユクサ

ツユクサ

Commelina communis L.

ユリ

ヤブラン

Liriope platyphylla Wang et Tang

ユリ

ジャノヒゲ

Ophiopogon japonicus Ker.-Gawl.

ユリ

ナガバジャノヒゲ

Ophiopogon ohwii Okuyama

アヤメ

シャガ

Iris japonica Thunb.

アヤメ

キショウブ

Iris pseudacorus L.

ドクダミ

ドクダミ

Houttuynia cordata Thunb.

ブナ

マテバシイ

Pasania edulis (Makino) Makino

ニレ

ムクノキ

Aphananthe aspera (Thunb.) Planch.

ニレ

エノキ

Celtis sinensis Pers. var. japonica (Planch.) Nakai

ニレ

ケヤキ

Zelkova serrata (Thunb.) Makino

クワ

ヒメコウゾ

Broussonetia kazinoki Siebold

クワ

カジノキ

Broussonetia papyrifera (L.) l Herit et Vent.

クワ

イヌビワ

Ficus erecta Thunb.

クワ

ホソバイヌビワ

Ficus erecta Thunb. f. sieboldi (Miq.) Corner

クワ

ヤマグワ

Morus australis Poir.

イラクサ

ヤブマオ

Boehmeria japonica (L.fil.) Miq. var. longispica (Steud.) Yahara

イラクサ

メヤブマオ

Boehmeria platanifolia Siebold et Zucc. ex C.H.Wright

タデ

ハナタデ

Persicaria yokusaiana (Makino) Nakai

ヒユ

ヒナタイノコヅチ

Achyranthes fauriei Lev. et Van.

メギ

ヒイラギナンテン

Mahonia japonica DC.

クスノキ

タブノキ

Machilus thunbergii Siebold et Zucc.

クスノキ

シロダモ

Neolitsea sericea (Bl.) Koidz.

ユキノシタ

ガクアジサイ

Hydrangea macrophylla (Thunb.) Seringe

ユキノシタ

アジサイ

Hydrangea macrophylla (Thunb.) Seringe var. otakusa Honda

バラ

ヤマブキ

Kerria japonica (L.) DC.

マメ

クズ

Pueraria lobata (Willd.) Ohwi

カタバミ

ムラサキカタバミ

Oxalis corymbosa DC.

トウダイグサ

アカメガシワ

Mallotus japonicus (Thunb.) Muell. Arg.

モチノキ

タラヨウ

Ilex latifolia Thunb.

ブドウ

ヤブカラシ

Cayratia japonica (Thunb.) Gagnep.

ツバキ

ツバキ

Camellia japonica L. var. hortensis Makino

ツバキ

ヒサカキ

Eurya japonica Thunb.

グミ

ツルグミ

Elaeagnus glabra Thunb.

ウコギ

ヤツデ

Fatsia japonica (Thunb.) Decne. et Planch.

ウコギ

キヅタ

Hedera rhombea (Miq.) Bean

ミズキ

アオキ

Aucuba japonica Thunb.

ミズキ

ミズキ

Cornus controversa Hemsl.

サクラソウ

コナスビ

Lysimachia japonica Thunb. var. subsessilis F.Maek.

エゴノキ

ハクウンボク

Styrax obassia Siebold & Zucc.

モクセイ

ネズミモチ

Ligustrum japonicum Thunb.

モクセイ

トウネズミモチ

Ligustrum lucidum Aiton

ムラサキ

キュウリグサ

Trigonotis peduncularis (Trevis) Benth. ex Hemsl.

クマツヅラ

ムラサキシキブ

Callicarpa japonica Thunb.

クマツヅラ

クサギ

Clerodendrum trichotomum Thunb.

シソ

トウバナ

Clinopodium gracile (Benth.) Kuntze

ナス

ヒヨドリジョウゴ

Solanum lyratum Thunb.

オオバコ

オオバコ

Plantago asiatica L.

アカネ

ヘクソカズラ

Paederia foetida L.

キク

オオアレチノギク

Conyza sumatrensis (Retz.) Walker

キク

ハキダメギク

Galinsoga quadriradiata Ruiz et Pav.

キク

メナモミ?

Sigesbeckia pubescens (Makino) Makino

キク

セイタカアワダチソウ

Solidago altissima L.

キク

セイヨウタンポポ

Taraxacum officinale Weber

キク

オニタビラコ

Youngia japonica (L.) DC.

ミカン

カラスザンショウ

Zanthoxylum ailanthoides Siebold et Zucc.

ムクロジ

モクゲンジ

Koelreuteria paniculata Laxm.

シシガシラ

コモチシダ

Woodwardia orientalis Sw.

三四郎池,島部分の植物リスト(2008.07.02



科名

種名

学名

オシダ

シケシダ

Deparia japonica (Thunb.) M.Kato

オシダ

ベニシダ

Dryopteris erythrosora (D.C.Eaton) Kuntze

マツ

クロマツ

Pinus thunbergii Parl

イネ

ケチヂミザサ

Oplismenus undulatifolius (Ard.) Roem. et Schult.

イネ

ススキ

Miscanthus sinensis Andersson

イネ

カモジグサ

Elymus tsukushiensis Honda var. transiens (Hack.) Osada

カヤツリグサ

エナシヒゴクサ

Carex aphanolepis Franch. et Sav.

カヤツリグサ

マスクサ

Carex gibba Wahlenb.

ヤシ

シュロ

Trachycarpus fortunei Wendl.

サトイモ

セキショウ

Acorus gramineus Soland.

アヤメ

キショウブ

Iris pseudacorus L.

ドクダミ

ドクダミ

Houttuynia cordata Thunb.

ニレ

エノキ

Celtis sinensis Pers. var. japonica (Planch.) Nakai

ニレ

ケヤキ

Zelkova serrata (Thunb.) Makino

クワ

ヤマグワ

Morus australis Poir.

イラクサ

ヤブマオ

Boehmeria japonica (L.fil.) Miq. var. longispica (Steud.) Yahara

ヒユ

ヒナタイノコヅチ

Achyranthes fauriei Lev. et Van.

クスノキ

クスノキ

Cinnamomum camphora (L.) Presl

クスノキ

タブノキ

Machilus thunbergii Siebold et Zucc.

バラ

サクラsp

Prunus

ミカン

カラスザンショウ

Zanthoxylum ailanthoides Siebold et Zucc.

トウダイグサ

アカメガシワ

Mallotus japonicus (Thunb.) Muell. Arg.

ウルシ

ハゼ

Rhus succedanea L.

モチノキ

クロガネモチ

Ilex rotunda Thunb.

カエデ

イロハモミジ

Acer palmatum Thunb.

カエデ

トウカエデ

Acer buergerianum Miq.

ブドウ

ツタ

Parthenocissus tricuspidata (Siebold et Zucc.) Planch.

ミズキ

ミズキ

Cornus controversa Hemsl.

ミズキ

アオキ

Aucuba japonica Thunb.

ツツジ

オオムラサキツツジ

Rhododendron

モクセイ

トウネズミモチ

Ligustrum lucidum Aiton

アカネ

ヘクソカズラ

Paederia foetida L.

ウリ

キカラスウリ

Trichosanthes kirilowii Maxim. var. japonica (Miq.) Kitam.

キク

セイタカアワダチソウ

Solidago altissima L.

水中環境調査

方法

もんどり(網目16mm、全長106cm、高さ41cm、幅63cm)と小型定置網(網目4mm、口径40cm、奥行き2m)を各2基ずつ用いた採集調査を、2008年9月3日の10:00~16:00、同25日16:30~同26日10:30に行った。網内に生物を誘引させるような餌は入れなかった。また、たも網(網目2mm、口径30cm)を用いた採集調査も併せて行った。得られた水生動物は同定した後、10%中性ホルマリン液に固定し、その後70%エタノールに置換した。

なお、補足として、採集調査中に見られた水生動物のうち、目視による同定が平易な種についてはその出現を記録し、可能な場合は写真を撮影した。さらに、三四郎池についての記述が見られる小説と東京大学総合研究博物館の魚類標本を調査した。また、三四郎池を利用したことがある方々にインタビューを行った。

また、得られた標本と写真資料は神奈川県立生命の星・地球博物館に保管してある。

結果と考察

もんどり及び小型定置網による採集調査では、ブルーギル、ミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニの3種が記録された。また、たも網による採集調査ではアメンボが記録された。この他、標本が得られなかったものの、目視で記録された種はコイ、ニホンスッポン、ウシガエルが挙げられ、コイについては写真資料を記録できた。

三四郎池に関する記述が見られる文献では、司馬遼太郎の「街道をゆく 37 本郷界隈」(朝日文芸文庫)には少年が三四郎池でオオクチバスを釣っている描写が記述されていた。これは1991年から1992年にかけて週刊朝日に連載されていたものである。また、東京大学総合研究博物館には1987年と1988年に採集された三四郎池産の標本としてオオクチバス、ブルーギル、トウヨシノボリ、モツゴが登録・保管されており、さらにオオクチバスとブルーギルについては「1987年または1988年から以降、目撃されるようになり、発見時、オオクチバスの産卵も確認している」というメモが記録されていた。

 以下に三四郎池産の水生動物目録を記す。

[三四郎池産水生動物目録]
節足動物門
甲殻綱
十脚目
アメリカザリガニ科
アメリカザリガニ Procambarus clarkii
昆虫綱
   カメムシ目
    アメンボ科
     アメンボ Aquarius paludum
脊椎動物門
条鰭綱
コイ目
コイ科
     コイ Cyprinus carpio
     モツゴ Pseudorasbora parva
スズキ目
サンフィッシュ科
    ブルーギル Lepomis macrochirus
     オオクチバス Micropterus salmoides
    ハゼ科
     トウヨシノボリ Rhinogobius sp. OR
両生綱
   カエル目
    アカガエル科
     ウシガエル Rana catesbeiana
爬虫綱
カメ目
スッポン科
     ニホンスッポン Pelodiscus sinensis
    ヌマガメ科
     ミシシッピアカミミガメ Trachemys scripta elegans

今回の調査ではブルーギルが優占しており、かつて採集されていたトウヨシノボリやモツゴといった小型在来魚は全く採集・観察されず、三四郎池内では絶滅した可能性が高い。また、オオクチバスは今回の調査では見られなかったが、4年前に釣りで釣った人がいるというインタビュー情報も得ており、個体数は少ないものの個体群は存続されている可能性がある。

現在の三四郎池の水中を利用している動物のほとんどが外来種であり、種数も少なく、保全上重要な種も記録されなかった。特にブルーギル、オオクチバス、ウシガエルの3種は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」での特定外来生物に指定されており、飼育・保管・運搬・放逐等が禁止されている。また、コイは生態系エンジニアとして富栄養化の系へレジームシフトを引き起こすことが知られており、国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会(SSC)は「世界の侵略的外来種ワースト100」に入れている。三四郎池で見られるコイには外来種として知られる“ニシキゴイ”が多いことからも、上記の特定外来生物と同時に駆除等の対策を実施していくことが好ましいだろう。

本調査で得られた情報で大まかな種組成の把握がなされたと思われるが、幼虫時代を水中で過ごすトンボ目などの水生昆虫は出現時期が限られている種も多いため、再度時期を変えて調査する必要があるだろう。

地表性昆虫調査

方法

2008年9月12日の16:30~18:30の間に三四郎池において様々な環境を含むように計20個のプラスチックコップ(口径7cm、高さ9cm)を地中に埋め込み、ピットフォールトラップとした。なお、コップ中には少量の寿司酢(誘引剤)と一味唐辛子(哺乳類の忌避剤)を加えた。14日の16:30~18:30において19個のピットフォールトラップを回収(1個は紛失した)し、トラップ中の甲虫類、アリ類昆虫を70%エタノールで固定した後に同定した。

結果と考察

トラップ中には以下の種が含まれていた。なお甲虫類の種の同定と配列は「原色日本甲虫図鑑(Ⅲ)、(Ⅳ)」(保育社)、アリ類の種の同定と配列は「日本産アリ類全種図鑑」(学習研究社)によった。

甲虫類
コメツキムシ科
ホソサビキコリ Agrypnus fuliginosus
ゾウムシ科
チビヒョウタンゾウムシ Myosides serienispidus
アリ類
アリ科
アメイロアリ Paratrechina flavipes
キイロシリアゲアリ Crematogaster osakensis
ムネボソアリ Leptothorax congruous
オオハリアリ Pachycondyla chinensis

トラップには代表的な地表性甲虫類であるオサムシ類、ゴミムシ類が全く含まれていなかった。アリ類に関しては樹上性のムネボソアリや、朽木に営巣するオオハリアリが採集されたことから、比較的樹林性のアリ相が形成されていることが予想される。以上のように確認された種は少なく、特に稀な種が採集されることもなかったため、三四郎池周辺の地表性昆虫相はあまり豊かではなく、特異性も高くはないようである。ただし、今回の調査は限られた時期に限られた数のトラップによって行われた簡易なものであり、三四郎池周辺の地表性昆虫相をより正確に把握するにはさらなる精査が必要であると考えられる。

まとめ

以上の各種調査結果をまとめると、三四郎池の今日の自然環境について、以下の問題点が指摘できる。まず一点目は、外来生物の侵入である。侵入は特に水域において特に顕著であるが、植生に関しても近年進行している状況が明らかになった。二つ目は、不適切な管理である。低木層における植生の繁茂は、見通しの悪さなどの原因となっていると考えられ、適切な管理計画を導入することによりこうした諸課題が相当程度改善されると考えられる。

なお、当初にも述べたとおり、本企画において調査されたのは、三四郎池周辺の自然環境のごく一部である。こうした問題点の検討のためには、三四郎池周辺の自然環境の調査を今後も継続的に進めていくことが必要である。

謝辞

本調査を進めるにあたり、東京大学学生支援グループの方々には聞き取り調査や現地調査に際して多大なるご支援をいただいた。また、実際の調査の実施やその取りまとめにあたっては、加藤裕一氏、北川淑子氏、宮崎祐介氏、吉岡明良氏にたいへんお世話になった。ここに記して感謝を表する。